続々・お客様という病

クレーマーを自らたくさん育て、調子づかせているといってよく、それが「お客さま目線に立った質の高いサービス」だとさえ思っている。そんな、発症していると気づけてもいないタチの悪い「病」を治す方法、ある?

うらごろー

Uragoro


続・お客様という病

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従業員の替えはない

 ルールや常識に沿った正しい対応をしても、客が不満と感じて“ご意見(=クレーム)”を入れてきたら一転、正しくなくなる理不尽に苛まれている、接客のゲンバ。客の立場なら何を言ってもしてもいいと思っている輩が減らない社会。


 思い出したもう一冊が、こういう話がもっと増えて珍しくなくなればいいのに…と思うエピソードを紹介している、『「サービス」を安売りするな!』(高萩徳宗/成美文庫)だ。


 ある温泉旅館でのこと。若い男性スタッフの対応が悪かったようで、客が激怒。もちろん謝るが、「お前じゃ話にならない、社長を出せ!」と叫ぶ。出てきた社長に「なんなんだ、こいつは! いったいどんな教育をしているんだ。すぐやめさせろ!」と大声を上げたという。


 ありそうなことだ。というより日本のあちこちで、似たようなことが今このときも起こっていることだろう。


 しかし、そこから先のようなシーンを見たり聞いたりすることは、残念ながらほとんどない。


 社長が返したことばは――


「お客様、大変申しわけないのですが、私どもには、お客様の替えはありますが、従業員の替えはないのです。やめさせろと言うのは、お客様に言われることではございません」


 想像もしていなかった返答に驚いた客はさらに激昂し、「こんな旅館、すぐに出て行ってやる!」と、ほんとに消えて行ったらしい。


わかっちゃいるけど? 変えられない…

 客の替えはあっても従業員の替えはない。


 当の男性スタッフも驚いたかもしれないが、社長はただ身内かわいさだけでこう言ったのではないだろうと想像する。ことの顛末を当然聞き、真摯に謝罪する若手スタッフの様子も見たうえで、そこまで否定され、ましてややめさせろなんて暴言を吐かれなきゃいけない話ではない。そう判断しての返答だったはずだ。


 著者も「こう言って自分をかばってくれたと感じたスタッフは、長く勤めるだろうなと思いました」と感心している通り、きっと本人も忘れることはない。


 もっといえば、この若手スタッフが年齢や経験を重ねて指導的立場に就き、同じような場面に遭遇したときにも(そういう機会が減りそうもないのは悲しい…)、生きる。そんな長い目で見た効果もある。


 無抵抗にペコペコすればいいわけじゃない。この温泉旅館の社長のような対応が、珍しく感じないくらいになればいいのだけど…


 近づけるための第一歩は、思考停止した奴隷対応(の強要)で現場が委縮・疲弊しているのを「上」が理解・認識すること。そして、客からのクレームが入ることじたいを悪ととらえる意識を改め、NOと言うべきときはNOと言い、その判断を肯定することだろう。


 好き勝手し放題言い放題なのが少しでも減り、サービス供給側の負担だけが増している今のアンバランスが少しでも矯正された社会に、生きてる間に変わると祈ってるけど…やっぱりむずかしいかな。

2020.06.30


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