夢想再録《辰吉丈一郎vs鬼塚勝也》#6

最終更新: 3月31日

当サイト編集人が以前在籍していた出版社のサイトに載せ、わりと真剣? に企画編集(夢想・妄想)した一作が、いつ閉鎖されてしまうかわからない状態であることを思い出し、再録…の、最終第6章!

夏野 澤夫

Sawao Natsuno


第5章

第6章 完 結

「なんやこれ、アホか! こんなんおかしいで」


 コントローラーをほうりだして、辰吉はぼやいた。


“ドラマチック・ボクシング”と題されたパッケージがころがっている。


 鬼塚はまだコントローラーをいじりながら画面の変化を追っていた。


「設定がおかしかったんかなあ」


「なんの設定や」


「いや、おれの方は汚いボクシング、負けないボクシングにしたんけど」


「おれは?」


「天才、カリスマと入れたんけん」


「そんなんちゃう」


「P設定もしてあったし」


「なんやそれ」


「パウンド・フォー・パウンド、体重同じにせんと…」


「そんなん関係あらへん」


「あっ、これがいけんかったんか」


「なんや」


「日付」


「なんや」


「試合日を今日にしたけん。日にちを入れんと始まらんけん」


「そんなんどっちゃでもええことや」


「いや、きっとコンピュータが勝手に読み込んで。ジョー、目、やったんけん」


 

「もう治っとるわ」


 辰吉の不機嫌を見て、鬼塚はコントローラーをそっと置いた。


「なあ、オニ」


 ややあって辰吉が声をかけた。隣で同じくあぐらをかいていた鬼塚は辰吉を見た。


「うちらがこんなんしとるちゅうの、内緒やで。誰にも言うたらあかん。うちらはなーんも接触しとらんことにしておくんや。うちらが戦えばおもろいゆうこと、マスコミが書きはじめとる。やれ、言うんやったらそりゃやるで、オニもそやろ。ほんまにやるようになるかもしれん。テレビや金の問題あるやろし、ライセンスのこともあるやろから、簡単にはでけへんやろけどな。そやけど、仲エエより悪いらしいゆう方がおもろいやん」


 鬼塚は辰吉の目を見て聞いていた。


「パンツいっちょでリングに上がるゆうのがどういうもんか、やったもんにしかわからんのや。それでええやん。自分を見てくれるもんのためにリングに上がるんや。家族や会長やトレーナー、ほんまの友達にほんまのファン、それだけやない、自分を見てくれるもんちゅうのは、自分の中の自分や」


 鬼塚は真剣な顔つきだった。


「お、われながら、ええセリフや。オニ、今のセリフやるから、インタビューのときに使え。こういうクサイせりふはお前の方が似合っとる」


 鬼塚は、世界王座奪取以来マスコミには見せていない、邪気のない笑顔を見せた。


《 完 》


2021.01.12

Photo : H.Inoue

※初出:2003.10.30


▼参考/採点表(・=10)


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