昨年12月にタフなチャレンジャーを退けた井上尚弥の次戦は、一昨年春に一度は決まったカシメロか、その前年に激闘を繰り広げたドネアとの再戦か。もしも、もしもカシメロになるとしたら――
井上 博雅
Hiromasa Inoue
ノー・トラッシュトーク
昨年12月、ジョンリエル・カシメロがポール・バトラー戦の前日計量を体調不良により回避、試合本番もキャンセル――の一報から想像したのは「体重を作れず遁走…」。もう、吠える資格さえなくなったなと失笑するばかりだった。
入院したと伝えられたことで、何か医学的に酌量すべき事情があったのかと思わなくもなかったが、心配するほどのことではなさそう。
それでも、タイトルは剥奪すべきコトと次第だろうと思ったが、そうはならず。後日提出された診断書でも、体調不良の理由と事情が「正当」であったと認められ、対戦の日程が再編がされることになった。
この一連の成り行きに井上尚弥も「一気にコイツへの興味がなくなった」とツイートするなど、対戦することになりそうな機運は著しく低下した。しかしそれでももし、もしもモンスターとカシメロが対戦することになった場合、思うことは一つだ。
挑発に反応せず、トラッシュトークには加担しないでおこう、ということ。
カシメロは自身の失態を棚に上げ(あるいは正当化し)、これまでのようにあれやこれや言い放つだろうし、これまで以上に品のない言動に出ることさえあるだろうが、何を言われても、もう反応しないでおこう、ということだ。
「こいつには敵わない」と思わせるとしたら
カシメロ陣営にしたら、ギャンギャン吠えまくることで井上が冷静さを欠いて少しでもペースを乱したり、不必要に力んでスキをつくってくれたら儲けもん。"正々堂々"じゃ分が悪く、そんなテでも使わなきゃ勝機を見出せないと、わかってる。
冷静でいられる(ように見える)こと、挑発をスルーされることが、カシメロにとっては何より不気味で、いちばんイヤなリアクションのはずなのだ。
と、自分なんかが言っても説得力はないので『おしえて! イチロー先生』(SBMC日興證券)から引用させてもらおう。
以下は、感情をどうやって抑えていたのですか? との問いに対する「イチロー先生」の答えだ。
まず感情的になったら、絶対に負けるということですね。結論は。絶対に負けます。冷静なやつには敵わないんで。
野球って、ヒットを打ったらめっちゃうれしいんですよ。でもそれが相手に見えると、なんかつまんない選手に見えるんですよね。つまり、相手の選手を見て、観察していて、「あいつ、こんなヒットで喜んでるなァ」とか、なんか底が知れる気がして、つまんないんですよ。でもこれを感情に出さないやつは、「こいつ、ここで打っても喜ばないのか」とか、「ここでも悔しい表情を出さないのか」とか。気持ち悪いんですよね、相手として。だから僕は常にそれを意識して、腹立つことあるけど、それはもうグッと抑えて…という訓練をまあ、日々していたんですよね。
WBCの2009年は、ご記憶の方もいらっしゃいますかね。その最後の決勝戦の韓国戦のセンター前ヒットがあるんですけど、じゃあ、僕はどういう振る舞いをしたらいいかというのを、走りながら考えるんですよね。ダッグアウトを見ると、きっと日本チーム、みんな喜んでくれている。見ちゃダメだと思ったんですよね。見たら、僕もそれに応えなきゃいけないんで。見てはいけない。だから僕は、見なかったんですよ。ダッグアウトを。
で、相手にとっていちばん屈辱は何かって考えたんですよね。それは僕が喜ぶことじゃない、と思ったんですよ。いつも通りしてたら、それはもうこいつには敵わないって思うとしたら、それだと思ったんですよね。だから、目の前に起きたことの、その先のことを考えるんですよ。そうすると、わりと冷静になれる。
イチロー自身の経験とプレーにたとえた野球での「勝負」に関するトークながら、うなずける、とてもわかりやすいこの話を聞いたとき…リゴンドー戦後に見せたカシメロの非礼にモンスターが軽くとはいえ反応していたことを思い出した。
腹は立つかもしれないけどグッと抑え、冷静なやつには敵わない、「こいつには敵わない」と試合本番で思わせることに集中しよう――と外野に言われなくても、モンスターはやってくれるか ^^;
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
オミクロン株の流行で感染者がまた増大し、ボクサーに限らず外国人選手の召致が困難になっている昨今。ドネアかカシメロとの統一戦を含め、年内3試合を計画する井上尚弥の次戦(だけではないが)も、当初想定した4月の日本開催はむずかしくなっているようだ。
外国人の日本召致が困難なら、日本人選手と…と思っての"牽制"なのか。国内で一人しかいない、自身が君臨する階級の制覇を狙う男との対戦にも前向きと発言したモンスター。
カシメロのような品のない言動はどちらもしないだろうから、このカードだったら、多少強めの舌戦はあってもいいかな、と思っている。
2022.01.16
Photo : H.Inoue
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