ボクシングマンガの代表的な作品といえば、古くは『あしたのジョー』、最近では『はじめの一歩』だろうか。自分の場合は『がんばれ元気』も、印象深いシーンがいくつか思い出せる好きな作品だ。
井上 博雅
Hiromasa Inoue
「器」ってなんだ
つまり、けっきょく…………
おれは世界チャンピオンの器(うつわ)ではなかったし……… おまえは世界チャンピオンになれる器だ!!
実力は認めつつも、何かにつけて強い言葉で挑発する火山尊(ひやま・たける)と、つとめて冷静に応じる主人公・堀口元気。二人が対峙するときは、だいたいそんな構図で描かれていたが――
東日本新人王決定戦・決勝の舞台で、初めて公式に対戦。少年時代から敵意をむき出し、嫉妬にも似た感情すら抱いていた元気にKO負け、目にも重傷を負った火山が、病床を見舞った元気に静かに語る。『がんばれ元気』の、今も印象に残るシーンだ。
関拳児という世界チャンピオンの攻略を目指していたけど、いつのまにか堀口元気(を倒すこと)に目標が変わっていた…と、火山が気持ちや意識の変化を明かしたときに出てきたのが、この「器」という表現だった。
器って、何だろ…
華? 雰囲気? 魅力?
才能ともまた違うようで…少年時代の自分にはむずかしく、口にしたこともないコトバだったけど、考え、こんな意味なのだろうと後にイメージしたのが、華というか、強さや実力以外に醸し出される雰囲気、魅力のようなもの――か。
主人公なんだから、そりゃそういう「器」であるように描くのは当然でしょ。そんなことを思わないでもないし、実際に元気は世界チャンピオンになったのだけど、でも矢吹丈は世界チャンピオンにはなれなかったか、とも思ってみたり…
その『あしたのジョー』では、「無冠の帝王」という言葉に小さな違和感というか、ちょっと引っかかったことがあったと思い出す。帝王(≒チャンピオン?)って肩書きは、"冠"にはならんの? とか…
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
父親や三島さんの最期、クライマックスである関拳児との世界フェザー級タイトル統一戦、恋愛模様など、思い出せる場面は他にも多くあるし、ちょっと冷静に読み返すと「ここまで一方的な展開になったら、ストップされちゃうよな」と思える試合シーンもある。
作画が表現の中心になるマンガ作品でも、セリフの中の抽象的? な一語が気になり、長く心に残ることもある、と今さらながら思い出す次第。
2020.08.27
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