いちばん高名な試合

12ラウンズ2160秒…まで、残り2秒。ボクシングの魅力と残酷さが凝縮されたアンビリーバブルな結末を見たあの試合を、また思い浮かべた――

下里 淳一

Junichi Shimozato


 1990年3月、アメリカ・ネバダ。


 常勝フリオ・セサール・チャベスがメルドリック・テーラーの技巧と勇気に手を焼き、攻めあぐねて、ポイントを失ってゆく。


 最終回、敗北の影がちらつく残り25秒。右カウンターがようやくヒット、ぐらつくテーラーはそれでも攻勢をかけんと、勝利へ、もつれる足を運ぶ。


Richard Steele, 1995

 残り15秒、再びの右でテーラー、ダウン。コーナーポストを背に立ち上がったが、リチャード・スティールはボクサーを見つめ、首を振り、手を振った。


 その瞬間、リングに飛び込むルー・デュバの怒声も抗議も、アンビリーバルのどよめきにかき消された。


 12ラウンズ2160秒、最後の2秒を残した戦いがボクシング史にきらめいた。


 チャベスらしい試合はほかにあるのに、この試合が思い浮かんできて、ここんところしんどいから、チャベスにあやかりたくなったのかもしれない。

2021.11.01

Photo : H.Inoue


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