待ちに待ったファイナル、ワールド・ボクシング・スーパーシリーズのバンタム級決勝《井上尚弥vsノニト・ドネア》は――予想外!? の、フルラウンドを闘い抜く大激戦。モンスターが優勝を決めた!
下里 淳一
Junichi Shimozato
今度はどんなシーンが…
これだからボクシングは、面白いというか止められないというか不可思議というか、悪く言えば始末に負えないというか。
誰がこんな展開を予測したろうか。
開場1時間前、夕暮れのさいたまスーパーアリーナは人であふれていた。
指定チケットがあるのだからわざわざ並ぶこともないが、落ち着く場を見つけるのも面倒で、行列につく。前にいる少年はスマホ片手にサンドイッチをほおばっている。薄闇に緑が見えたので野菜サンドかなと、腹ごしらえも必要だなと思うが、でも試合はすぐに終わるとオレは思っていた。
ここ3試合の井上尚弥は神がかっていた。圧巻のリングの連続だった。だからまた続編を、ファンも関係者もミーちゃんハーちゃんも誰もが待っていることは、この群衆を見ればわかる。相手は名立たる王者といえども10歳年長の36歳、盛りは過ぎている。
記憶に残る鮮烈なKOシーンは、今度はどんなものか、オレも待っていた、一瞬の永遠なんていうフレーズを朝から幾度か思い浮かべながら。だけどさ、あんまりこっぴどくはやらないで、なんていう思いあがりも秘めて、その瞬間を待っていた。
両雄が見せた底力
それがまあ、フタを開ければ、スリリングなフルラウンド判定決着。
これまで見たことのないモンスター井上の出血、クリンチ、ピンチ。「尚弥、尚弥」の声援が我が子を呼ぶ母の声に聞こえたりして。英雄ノニト・ドネアも練達のボディワークで前進を止めない。
力尽きたと見えたダウンシーンのロングカウントは、両雄の底力をまだ見たいという何かの思し召しだったか。
精緻な評論、情報はプロアマ諸氏にお願いして、オレはあらためてモンスターの試合を繰り返し見ていたい。
さいたま新都心駅ホームで23時09分発の電車を待ちながら、ビルの谷間に浮かぶラグビーボールのような形の月を眺めた。まさかモンスターの目は傷ついていないだろうなと、ちょこっと不安がよぎった。
2019.11.10