やはり、モンスターのモンスターによるモンスターのための大会か。2カ月たった今もまだ、飽きることなくあの"惨劇"の余韻に浸っている。過去のグレートたちが見せてきたシーンも思い返しながら――
下里 淳一
Junichi Shimozato
尽きぬ話題
ネットの発達で、世の中のカラクリとか黒幕とかが見え隠れすることがあったりして、なあんだよぉ、この世はウソばっかだったのかよぉ、そんなこと知らなかったよぉと、おのれの怠慢や間抜けにあきれることがしばしばだ。
じゃ、ボクシング界を牛耳っているのは誰なんだ、それらしい人物の、その背後でうごめく支配者は誰なんだ、って、さぐっても、わかりっこないけどね。
5月19日のグラスゴー以来、井上尚弥の話題が尽きない。
KO劇の衝撃や次戦の展望にはじまり、パウンド・フォー・パウンドのランキングや仰天マネー契約予定、あとなんだっけ……あとからあとから、とりどり出てくる。それも海外から。
そのたびに思うよ。井上尚弥は、ボクシング界の裏の裏、奥の奥にいるであろう魑魅魍魎(ちみもうりょう)までも魅了した、と。そのたびに、ほのかにいい気分になる。
だけどさ、モンスターは物欲しげじゃないんだよな。ガツガツした感じがおれには見えないんだよな。それがまたいいっちゅうか、すごいっちゅうか。
世間は参議院選でやかましいが、梅雨空、軒下にいたツバメは巣立ってゆく。
3度のダウンそれぞれに…
で、きのうもまたエマヌエル・ロドリゲス戦を見て、3度のダウンシーンそれぞれにあらためてデジャビュ感を覚えた。倒れた瞬間ではなく、倒れたあとの敗者の、動作、ありさま、たたずまいに対しての僕なりの既視感。
初めは、ロベルト・デュランに12R倒されたときのエステバン・デ・ヘスス。本人にしたら異次元から飛んできたパンチだったんじゃないか。
2度目は、具志堅用高に敗れたリゴベルト・マルカノ。仰向けに倒れたあと、四つん這いでイヤイヤをしていたようなしぐさは忘れられない。
3度目は、サルバドル・サンチェスに対したウィルフレド・ゴメス。膝を折って座り込んだような姿を誰が予想しただろう。
ロドリゲス戦はいろんな愉しみがあって、飽きない。
2019.07.19
Photo : H.Inoue