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情けは人のためならず

矢吹正道とのリターンマッチが決まった、寺地拳四朗。王座奪回を目論む前チャンピオンのボディブローについて、言おうと思って言いそびれていたことをひとつ――

下里 淳一

Junichi Shimozato



 負ける前に言っておきたかったが遠慮が働いて機を失ってしまったけれど、再戦決定を聞いて告白することにした。


 寺地拳四朗のボディブローについて。


 常勝のとき、相手をロープに詰めて顔面へ連打を見舞う。合間に腹を打つ。あの腹打ちが、セオリーだけれど、ほとんど鍛えようのない急所の顔面への攻めだけでもいいのに、まもなく決着がつくだろうに、ポンと腹に持ってくる。


 

 あの流れ、上下の打ち分け、間合いが、自分のことだけで手いっぱいなのに立ち止まって人助けをする、みたいな感じに僕には見えた。


 結果、それが、ボディブローが相手のダメージをおさえつつ効果的な勝ちにつながった、と。


 もちろん相手への温情で腹を打ったんじゃない。勝つために打った。有能な選手はみんなやっている。そうなんだけど、情けは人のためならず、そんな文句がなぜか浮かんだ。拳四朗の風貌やボクシングスタイルから受ける僕のとんちんかんの印象のせいだろう。


 桜三月、どんな春か、両雄の登場が待ち遠しい。

2022.1.26

Photo : H.Inoue


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