マービン・ハグラー 2

更新日:3月31日

やはりレナードとの"再戦の火"は消えていなかった? ハグラーの死を知ったいま、あの一戦をまた思い返し、考えをめぐらせている――

下里 淳一

Junichi Shimozato


強いのはハグラー、勝ったのはレナード

 マービン・ハグラーの死で、シュガー・レイ・レナード戦を思い返した。


 運転していて、やたら赤信号にぶつかるので、落ち着いて気分変えなきゃと、そしたら、その一戦が浮かんだ。


 軍配はレナードに上がったが、ハグラー勝ちの声もあった。


Official Program, Hagler vs. Leonard

 現行ルールに則れば、差し違えなし、微差ではあってもレナード勝利は明白だった。どちらが強かったか、ではなく、どちらが勝ったかという試合だった。強いのはハグラーだった。勝ったのはレナードだった。


 興行を前に、レナード陣営は人気を楯にして、自身に有利な条件を要求した。嫌なら試合やんないよ。ハグラーにはハンデを負っての試合だったが、鵜呑みで臨んだ。それでも勝てるからと。


 そしてレナードの手があがった。


 レナード仕様のリングで、少し前までのような15回戦ではなく12回戦のゲームは、レナードが真骨頂を発揮した。ハグラーを空転させたのは見事だったが、もともとがレナード勝利への周到な御膳立てのもとに行われたものだった。ずるいなあ。


 当時から、ほんの数分前まで、おれの中に残る、あの試合の印象だった。


 前を行く大型トラックが左折で消えて、視界が開けた。


 だけどあれは、今、気がついた。レナード本人にしたら一世一代の大勝負だった。もとよりハグラーと戦うなど、力量が違いすぎて、ありえない話だった。


 本人じゃないので、以下、空想で抽象的に言うんだが、目の前の申し分のない相手を見過ごすわけにはいかず、現在の自身の境遇に、かつてない宿願を覚えて、危険という橋を、無謀という声を尻目に渡るべきと、内なる声に従った。ボクサー魂に火がついた。


消えていなかった? "再戦の火"…

 立派だけど、立派だから、ほんと残念。


 せっかくの一世一代にずるさが透けてしまって、あの試合、語りぐさにできないうらみが残る。堂々のボクシングだったら、たとえ惨敗しても、おれはレナードにしびれたかもしれない。


「なにをぬかしてるんだ、甘ちゃん。世の中はそんなもんじゃない。勝ってなんぼだ。ボクシングもおんなじだ」


 と指南役アンジェロ・ダンディはわらうだろうか。


 ハグラーは最期までレナードとの再戦の火が消えなかったはずだ。


 おれ、ガキのときから草相撲が好きで、嘘だと切り捨てて構わないが、ほとんど無敵だった。中学生のとき一度負けた同級生があって、再戦をいくどか申し込んでも応じてくれなかった。


 それがずっと心残りで、老いぼれた今でも、時間なんか戻さなくていい、準備なんかいらない、向こうにその気があるなら、すぐさま彼とやりたい、ってね。


 

 ハグラーとおれじゃ、次元がまるで違うが、悔しさをはらすとか、強さを証明するとか、そんなこともあるが、強い相手とやるって、たのしいんだ、だからやりたいんだ。


 と、むやみやたらと信号に引っかかる運転で、考えをめぐらせていた。


 合掌。

2021.3.23

Photo : H.Inoue


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