「リアル二刀流」でメジャー4年目を完走し満票でMVPにも輝いた大谷翔平を読み、来季以降のさらなる進化と飛躍を想像している、2021年の野球シーズン最終盤――
井上 博雅
Hiromasa Inoue
「27球」か「81球」か
メジャーリーグもドラフト会議も日本シリーズも終わり…社会人・都市対抗大会は真っ最中(あした決勝)だけれども、最終盤を迎えている2021年の野球シーズン。
30-0の"ユナニマス・デシジョン"でアメリカンリーグ、そして選手間投票でもMVPに輝いた「リアル二刀流」の大谷翔平、日米で23年の現役生活を終えた松坂大輔、熱戦つづきだった「ヤクルト×オリックス」の日本シリーズなど、続々と刊行された野球特集の一つ、 Number の1040号《大谷翔平 2021完結編》を読んでいる。
巻頭の本人ロングインタビューから読み応えあり。
1試合をすべて初球で打ち取って27球で終わらせるのと、すべて3球三振の81球で仕留めるのと、どちらのピッチングが理想に近いかを問われ――
「それを言うなら、間を取って50球くらいかな(笑)」
27球のピッチングと、81球のピッチングを併せ持っているというのが理想、と答えた大谷。続けた言葉が、なんだか印象に残った。
27球で終わらせるピッチングをするとなれば、全部の球をバットに当てさせなくちゃならないじゃないですか。
27球で終わらせるには全部の球をバットに当てさせなくちゃならない。
自分が知らないだけでもちろんいたかもしれないのだけれど、こういう言い回しで理想、パーフェクトのむずかしさを表現した選手、いままでいただろうか。
神様、仏様…大谷様!?
バッター1人1人を、1球で必ずフィールド内に打ち返させる。ヒットはもちろん、(ゴロの)ファウルもダメで、それを3巡――なんて芸当がいくらなんでも不可能なのは自分にもわかる。ほんとうにそんなゲーム展開になったら、野手にかかるプレッシャーも相当なものだろう(笑)。
序盤のリスクの少ない場面では球数をコントロールしながら27球のピッチングをして、終盤の1点を争う場面なら3者三振を狙って81球のピッチングをする。もっと細かく言えば、チームの状況にもよりますよ。たとえば……(中略)……いろんなことを計算しながら投げられれば、それが一番いいんですよね。
このへんを読んで、かつて取材する機会があった「神様、仏様…」の稲尾和久さんをふと思い出した。
稲尾さんが言っていたのは「ピッチャーはなんであれ、バッターをアウトにする」のが仕事。三振で取るのがいいときもあれば、三振じゃない手段で取ろうとするのが望ましい場面もある。「展開によってベストのアウトは何かを考えなきゃ」ということだった。
シーズン42勝の大記録も持ち、現役通算の防御率も1点台(1.98!)だった鉄腕で、連投も当たり前だった時代に活躍した人。チーム状況やゲーム展開を考え、翌日の登板に備え余力を残すよう意識する習慣もあったのだろう。
投げて打って走って、ベーブ・ルースという100年も前のビッグネームが何度となく引き合いに出され、記録にも記憶にも鮮烈に残る大活躍を見せ、2021年シーズンを「完結」した《大谷翔平》。
ホームラン王を惜しくも逃し、自身の成績だけでなく、勝利を渇望するコメントもしていた大谷が「神様、仏様…」の域に到達する(もうしてる?)のは来季か、もう少し先か。
今季のような活躍を見せ、めざす「チームを勝たせる二刀流」で所属チームがポストシーズンに進出、チャンピオンシップシリーズやワールドシリーズでも投げて打って、チームも頂点に立ったとき、だろうか。
まもなくシーズンオフ。かつてのように海外を自由に行き来できなくなっている現状は残念でしかたないが、可能なら、ホームのアナハイムでも遠征する別の都市でも、久しぶりに渡米・観戦してみたい――という思いは変わっていない。
2021.12.08
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