お客様という病

最終更新: 6月23日

お客様は神様? 誠心誠意のおもてなし? いやいやそういうのはもういいから、勇気をもってその思想から脱しましょうよ。そう考えるも、なかなか改まらない状況をどうにかしたがっている、末端の駅係員がボヤく――

うらごろー

Uragoro


お客様は神様!?

 その昔、三波春夫さんが発した《お客様は神様です》のフレーズが、過度なお客様信奉を助長する大きな一因になってしまって久しい。


 接客といわれる職種に就いている人は特に、聞いたことない人はいないだろうというほど、ポピュラーになっている「お客様は神様」。これの意味を確かめたことがある人は、案外少ないのではないか。


 レコードやCD、ビデオ等々を買ったり、公演に来てくれる人=お金を払ってくれる人だから神様と見立て、手を合わせ、崇めたてまつります…かと思っていたら、そうではなかった。  三波さんは2001(平成13)年4月に亡くなられたが、ご家族が運営する公式サイトでは、この名フレーズが、長いこと誤解されつづけていることに対する困惑を綴っている。

 肝の部分を引用させてもらうと――


三波にとっての「お客様」とは、聴衆・オーディエンスのことです。また、「お客様は神だから徹底的に大事にして媚びなさい。何をされようが我慢して尽くしなさい」などと発想、発言したことはまったくありません。

http://www.minamiharuo.jp/profile/index2.html


 神前で祈るときのように澄み切った心で、お客様を神様とみて、より真摯な気持ちで歌を唄う。三波さんが発しているこの真意、もっと知られてほしい。


互いに敬意を

 もう一つ「お客様」との関係を考えていて思い出したこと。


 外出自粛期間ということもあって、好きなテレビ番組を録りためたDVDなどを整理…せずに見入ってしまうことが多いここ最近。2005年の『矢沢永吉 LIVE HOUSE TOUR 2005 "Roots"』に密着し、NHKのBS2が放送したドキュメンタリーでの"矢沢トーク"に聴き入った。


 この年、2カ月に及んだツアーを沖縄で終えた翌朝、帰京するために空港へ向かう際? の車中での語り――


きのうホテルのバーでフアンが来てさ。こっちは気持ちよく飲んでて、トイレ行っ たら「サインくれ」って。きのうはキレたね。「おまえもう出入り禁止だ。二度と来るな !」って言ったもん。フアンに向かって「おまえ二度と来るな!」って言うアーティストはおれぐらいだ ろうね。でもこれはね、20年前からその姿勢だから。お客様は神様とかね、フアンは大事ってのは、そりゃ当たり前よ。だけどね、だから といって、フアンにもフアンで越えちゃいけない線、てのがあるのよ絶対。……フアンもそこを察しなきゃ。


 ファン、ではなくフアン("ア"が小さくない)という言い方も独特な、当時から変わらない存在感を示す永ちゃんの姿勢。今だったら、"フアン"が録音でもしていて晒し、炎上…なんて可能性もあるやりとりか。自分も「お前二度と来るな!」なんて言ってみたい(笑)。


 互いに敬意をもって接する対等な関係であるべき、という当たり前の考え方も、一部著名人による強い発信以外、なかなか理解されないのが現実。


 カネ払ってんだからいいだろ、(運賃や商品代金の範囲を逸脱して)ついでにこのくらいしてもらってもよかろ、この程度のことしてくれて当然だろ…etc. etc. こっちは"お客様"なのだからと、時に過剰な要求をされ、当然応じるべきと詰め寄られることが多い日常。


 目の前にいらっしゃる方はみなお客様、誠心誠意のおもてなしを…などと、「徹底的に大事にして媚びなさい」「何をされようが我慢して尽くしなさい」を、半ば強要する発想はやっぱり病んでるよ、と思う。

 ▽

つづく

2020.05.22


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